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山本敏行さんとは
チャットワーク創業者(現MyCSO) 山本敏行氏昭和54年3月21日、大阪府寝屋川市生まれ。中央大学商学部在学中の2000年、留学先のロサンゼルスでEC studio(2012年にChatWork株式会社に社名変更)を創業。
「自分がいなくてもうまくいく仕組み」、「日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方」を出版し、いずれの著書もアマゾン売上総合ランキング1位を獲得。
2012年に米国法人をシリコンバレーに設立し、自身も移住して5年間経営した後に帰国。
2018年Chatwork株式会社のCEOを共同創業者の弟に譲り、翌2019年東証マザーズへ
550億円超の時価総額で上場。同年新サービスの「My CSO」をスタートさせ、ビジネスYouTubeチャンネル「戦略チャンネル」でこれまでの経験、ノウハウを配信している。
勝亦:こんにちは、株式会社エグゼサポートの勝亦です。
今日は「仕組み経営対談」ということで、普段はなかなかお会いすることができない方に、この対談でお話を伺っていきたいと思います。
今日はチャットワークの創業者の山本さんにお話を伺っていきます。よろしくお願いします。
山本:よろしくお願いいたします。現在、My CSOというサービスをやっております。
勝亦:My CSOの山本さんですね。実は今日がその「仕組み経営対談」の記念すべき第1回なんです。すでに5名ほど(対談者が)決まっていて、今日を皮切りに対談をしていきますが、どうしても第1回は山本さんにお願いしたいという私なりの思いがあったのです。
山本:ありがとうございます。
第1回対談に山本さんを選んだ理由
勝亦:(山本さんにお願いしたかった)理由は2つあって、私は起業して現在7年目になりますが、実はチャットワークヘビーユーザーなんです。
山本:ありがとうございます。
勝亦:チャットワークのアカウントは1人ビジネスですが、エンタープライズ契約させていただいています。今、私が使っているアカウントは2つありますが、合わせると左側に表示されるのチャットグループが約1,500個ほどあります。なので、結構なヘビーユーザーだと思います。
山本:そうですね、かなりですね。
勝亦:本当に、このチャットワークがなければ今の私のビジネスは成り立たないぐらいのものでした。一番最初に使ったのが2012年の後半か中盤でした。
山本:相当早いですね。
勝亦:結構初期ですよね。
山本:はい、かなり初期です。
勝亦:なので、私のこのヘビーユーザーの思いも(伝えたい)。今日は趣旨が違いますが、ぜひ山本さんに第1回の対談をお願いしたいと思い、そのようにさせていただきました。
山本:お願いします。
勝亦:もう1つの理由は、こちらにある山本さんの本で『日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方』と、『自分がいなくてもうまくいく仕組み』。この2冊が、私の仕組みづくりの中のアイディア本だったんです。
後ほど詳しくお話を伺いながら「私がこうだったんです」とも言えるかと思いますが、そういったこともあり第1回目で対談させていただくことになりました。よろしくお願いします。
山本:お願いします。
勝亦:今日のお話は、これまでに山本さんがしてきたビジネスについてを、この本の流れの通りに(辿っていきます)。最初はEC studioでしたが、後に社名をチャットワーク株式会社に変更して…。
山本:そうですね、シリコンバレーに進出するタイミングで社名を変えました。
勝亦:ですね。それがこの『自分がいなくてもうまくいく仕組み』で書かれている内容ですね。
山本:そうです。
勝亦:そして、現在のMy CSOに至るまでの流れを時系列に沿って、また仕組み経営の観点からもいろいろとお話を伺っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
山本:お願いします。
チャットワーク・My CSO創業者山本社長とは
勝亦:では最初に私の方から山本さんのプロフィールをご紹介させていただきます。昭和54年3月21日。
山本:54321なんです。
勝亦:すごいですね、本当だ。54321なんですね。大阪府寝屋川市生まれ。中央大学商学部在学中の2000年に、留学先のロサンゼルスでEC studioを創業。2000年に創業されたのですね。
山本:はい。
勝亦:ではもう19年、20年間経営(されているということですか)。
山本:経営を始めて18年、19年ですね。
勝亦:そして2012年にチャットワーク株式会社に社名を変更されました。
また、『自分がいなくてもうまくいく仕組み』と、『日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方』を出版されて、いずれの著書もアマゾン売上総合ランキング1位を獲得。素晴らしいですね。私もこのころ、(山本さんの)本を購入して一生懸命読んでいました。
2012年に米国法人をシリコンバレーで設立し、ご自身も移住して5年間経営をした後に日本に帰国されて、2018年にチャットワーク株式会社を共同創業者の弟さんに譲られてから、2019年にMy CSOをスタートされました。
My CSO創立と経営者側の戦略との関係
勝亦:先日、このMy CSOの話を伺って、非常に興味深く面白かったので、今日はこの部分をみっちりお話を伺えればと思っております。
現在は、ビジネスYoutubeチャンネル「戦略チャンネル」を立ち上げて、これまでの経験やノウハウを配信されています。
私は普段から山本さんの「戦略チャンネル」も拝見していますし、いろんな動きを見ていて、実行力、行動力がものすごいな、と思っています。
これは、ある自分の意図したものに対してゴールを設定して、そこに向かって計画して実行されているという感じでしょうか?アイディアをたくさん持っているな、といつも思います。
山本:そうですね、自分は問題解決マニアみたいなところがあって、問題があると解決したくなってしまうんですね。
普通の人が解決できるような問題には全く興味がなくて、ほかの人が解決できないような問題になると急にスイッチが入ります。ずっとそれを考え始めて「見えた」みたいな(感覚)。トンネルの先に光が見えた、みたいな感じでです。
すると、もう猪突猛進のような感じでウワーッとやりたくなってしまうのです。
勝亦:そうなんですね。
山本:はい。
勝亦:なぜそれをお聞きしたかというと、本を読んでいても、何かそういう(行動をおこしそうな)面を非常に強く感じられたからです。人とは異なる切り口があるな、と思っていました。1つはこちらの『日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方』、これはおそらくEC studioの時代に書かれた本でしょうか。
山本:そうです。
勝亦:ここの部分に、「メイクハッピネス」という理念が書かれています。「お客さんではなくて社員第一主義」と書かれていましたが、その社員第一主義から逆算していろんな制度、これが完全な仕組みになっていると思いますが、これを作られてきたということですね。
山本:そうですね、まず会社を創業したての頃に、5人いた創業メンバーのうち3人ほどが辞めてしましました。「これはダメだ」と経営の勉強を始めて、1,000人のいろんな経営者に会いに行きました。
やはり、100人200人と会っていると、その中で良い経営者とそうじゃない経営者がだんだん分かるようになってくるんで
勝亦:1,000人もですか。
山本:1,000人会うと、です。この本にも書きましたが、良い経営者の特徴は、自分の仕事を楽しそうに話したり、自分の社員のことを褒めてたり、モチベーションを持っておられたりしているでしょう。
経営は、大学などとは違って先輩後輩も関係なく、全員ガチンコ勝負じゃないですか。
勝亦:確かにそうですね。
山本:先輩後輩で何か少し手加減してやろうかとかは一切なく、芽があるような若手が出て来たらつぶしに行くぞ、ぐらいの真剣勝負だと思うんです。
先輩経営者で私より経験もノウハウもチームもあって、私は会社を設立したばかりですし、そんな時に同じ土俵で戦っても絶対に勝てないな、先輩経営者が社員を大切にしてるのに、私が普通に大切にしてるだけじゃダメだなと思いました。
社員第一主義ぐらいでやらなければ差別化できない、彼らに勝てないと思ったので、社員第一主義(経営幹部は社員を第一主義、社員はお客様第一)にしました。
勝亦:なるほど。そうですよね。
山本:全員が社員第一主義だとお客さんを逃がしてしまうし、利益、売上が上がらないので、「社員はお客さんを見ておいて」と。でも、社員にとってどこか少し理不尽な(態度をとる)お客さんもいらっしゃるわけです。
そういった時にきちんと見極めて、全てこちらが悪いのではなくお客さんの方がおかしい、となった時にはしっかりと守りに行きます。そうすることによって社員がもっとのびのびと、後ろにお父さんお母さんがついて(くれてい)る、ぐらいの感覚で生き生きと仕事してもらえるように、といった思いを込めています。
勝亦:そうなると社員もすごく安心できますね。
山本:そうですね「私が入りたい会社を作ろう」と思ったんです。
勝亦:なるほど、素晴らしいですね。
その、社員満足度向上に軸を置くためにいろいろな仕組みを作られましたね。これはどういった発想から作っていったのでしょうか?
山本:そうですね。社員満足度を1位にしようと思ったことはないです。
勝亦:そうですか。
山本:はい。社員第一主義をずっとやっていて、組織診断を受けたら日本一だった、という結果論なんです。「何だ、日本1位か」と。別にそんな、どこかの第三者機関に診断して表彰されたところで別に興味はなく…。自社をより良くしたいだけでそのヒントを得るために組織診断を受けただけです。それ(組織診断)で潜在的な問題が見える化するんですね。
健康診断のような感じです。例えばガンとか糖尿病とか脳溢血とかなにか(いろいろ)、潜在的な問題は、顕在的な問題になる前に健康診断で出てくると思います。組織も顕在化する前の問題を先につぶしたいなと思って組織診断を受けたところ、日本一だった、ということなんですね。
勝亦:なるほど。本を読んでいて思ったのが、採用の部分なんです。採用(基準)が、最初はスキル重視だったところが、スキルではなくて思い重視に変わっていきましたよね。私が提唱している仕組み経営も、一番のベースの所はやはり価値観なんですね。
人を採用する時も、パフォーマンスとかスキルか、価値観か思いか、というところのどちらかといえば、やはり優先度の一番は価値観なのですが、同じような価値観、同じような思いを持つ人を採用していた、ということですか?
山本:そうですね。まず自分たちの理念。理念とは、羅針盤や方位磁石のように、経営の指針となる考え方ですよね。
目的地(ビジョン)に向かって行く時、「私たちの考え方はこれで、目的地はここです。それに共感しますかしませんか。あなたの目指している将来の人生の目的地、ビジョンは私たちの目指している方向に沿っていますか?もし沿ってないんだったら違う所に行ったらいいし」と。
それは現在いる社員でも同じで、「違ってきたな、と思ったら、居心地がよくてもそれは自分の人生にとって良くないから、別の方角に行った方がいいよ」と(言います)。
入社の時にも必ず「君の目指してるビジョンは何ですか?」「ここを目指してる」「われわれはこっちを目指してるよ」と(聞きます)。
そうでなければ、例えば綱引きに例えると、全員で後ろに引っ張りたいのに、目的地や考え方が違うために反対へ引っ張る社員がいると、たとえ1人でも反対に引っ張られると、総合力がマイナス2になるんです。10人が引っ張ったら10の力だけれど、1人が反対に引っ張ったら8の力しかなくなります。
一枚岩・ベクトルをそろえるという意味では、われわれはこうです、としっかり打ち出すことによってちゃんと後ろに引っ張ってくれる仲間をつけてくることですね。
10年先を見据えた経営の戦略と実装
勝亦:なるほど、ありがとうございます。また、おそらくこのEC studioの時代あたりから、チャットワークというツールまでの流れで重要な部分として、電話がない・お客さんに会わない、がとても特徴的なのですが、これは最初からですか?
山本:はい。最初からです。ロサンゼルスからスタートしたので、裏を返せば電話を受けられない、お客様に会えない。そもそも無理だったのです。
勝亦:なるほど。
山本:プラスして、当時21歳の大学生だったので社会人経験がありませんでした。電話を受ける自信もお客様に会う自信もない。メールのみでいいでしょう。その分良いサービスを安く提供するんだから、と。
コミュニケーションコストを抑えて、クオリティを高く、良いサービスを提供するのでそこを納得のうえで買ってくださいと(案内しました)。しかし、当時はやはり、「電話がない会社ってどういうことだ」といろいろ怒られました。
勝亦:そうですよね、おそらく。
山本:でも10年後になると「斬新ですね」(と言われるようになりました)。いや、私たちは最初からずっと同じことをやっています。なのに周りが変わるんですね。
勝亦:なるほど。
山本:今の働き方改革もそうですね。2008年ぐらいに私たちは業務効率支援に入っていました。その時には働き方改革という言葉がなかったので、業務効率支援、当時グーグルアップスの日本第一号代理店になった所(今のジースイート)へ交渉しに行きました。「これは日本に広げるべきだ」と交渉しに行くと、「日本に代理店制度はない」と言われました。
「でもこれは絶対広げないといけない。私たちはこういうふうにやっていくからやらせてくれ」すると、「じゃあアメリカで契約してくれ」と言われたので、全て英語で書かれたこんなに分厚い、しかも「何があってもおまえが悪い」という内容の契約書にサインをしなければ売らせてもらえなかったのでそれにサインしました。
勝亦:サインしたんですね。
山本:日本で売りまくって、グーグル・マーケティング・アワードをいただこう(という計画で)。グーグルアップスが広がったのは、最初に私たちが初期段階でドンとやりました。
勝亦:そうなんですか。
山本:といったように、時代をおそらく10年ほど先取りしてます。
勝亦:だいぶ早いですね。これもおそらく先取りの部分だと思いますが、今は、やることよりもしないことが大事だとか、ようやく言う(ようになりました)。EC studioさんははじめの頃から「しないこと14カ条」と言われていましたね。
山本:そうですね。やっぱり。
勝亦:これも斬新だなと思っていました。
山本:そうですか。人間には24時間しかありませんから。多くの会社はやることばかりが増えていくものです。そして、1度やって習慣になると、やるのが当たり前になります。
しかし、そのうちに、これもあれも、と会社はもっと頑張ろうとします。いや、それはどう考えても無理でしょう。やる前にまず減らす。そうでなければ入りませんね。容器の中が水でパンパンなのに、さらに水を入れればそれは、こぼれますよね。
それを何とか根性で、と考えるのが日本人の根性論的考え方ですが、本当に大事なことや人を大切にするのであれば、先にそういったものを取り除かないと、どう考えても難しいじゃないですか。
勝亦:素晴らしいですね。私は、おそらくその10年後ぐらいにメルマガで書いています。
誰もが納得するルールから説得力が生まれる
勝亦:実は全然関係ない話かもしれませんが、今日どうしてもお伺いしたかったことが1つあるのです。最初のころに、本を読んでいて気付いたのですが、1,400円や1万4,000円といったように、1と4の数字がとても良く出てきますね。イーシーだから1と4なのかなと思いましたが、その後ろの方にやはり書いてあったんです。
山本:そうです。
勝亦:イーシーと書いてあって、1と4にこだわり…と書いてありましたが。イーシーから1と4の数字が多くなったのか、もしくは1と4にこだわりがあったからイーシーという名前ができたのか、この順番はどちらなのでしょうか?
山本:EC studioが先ですね。2003年ぐらいに名前をつけましたが、Eコマース(EC)といえば、今でいうところのネットショップっぽい感じですよね。
2000年あたりの頃は、ECといえば電子商取引。今より少し概念が広かったのです。親が音楽スタジオをやっているので、そちらを無理やり継がされる感じで、親の会社と自分の会社をかけもちしていました。
そして、きちんと社名をつけようと思ったときに、電子商取引のスタジオのような、いろんなサービスやっていきたかったのです。
スタジオには部屋が、Aスタジオ、Bスタジオなどありますよね。そういういろんな事業がポコポコとあるような会社になるといいな、と思ってEC studioと名づけました。
なぜ1と4にこだわったかというと、別に周りの評価はどうでもいいのですが、「うちの会社は普通の会社と違う」、「だから君たちはもっと頑張って世界中から、日本中から見本となるような社員にならないといけないんだぞ」と、ずっと言っていました。
大阪の田舎の方がその時に、「じゃあ住宅手当いくらにしますか」や、「何とか手当てとかどうします?」となると「2万円ぐらいかな。世間もそうだし」。「え、うちの会社って普通の会社じゃないんですよね?世間相場を参考にするんですか?」と、都度都度面倒くさかったのです。
とはいえ、毎回いろんな数字を決める時、いちいち面倒くさいなと思った時に、誰もが有無を言わさず「イエス」と言わざるを得ないようなルールが何か作れないかな、と思い、「イーシー、1と4はどうだろう」と思えたら、1と4の数字は非常に都合が良かったりするんです。
勝亦:そうなんですね。
山本:そうなんです。資本金も1,414万円ですし。
勝亦:1,414万円ね。
山本:「1つの会議に4人までしか参加しちゃダメよ」とか。
勝亦:1社40人までとか。
山本:1社40人以下。1つの教室はそれぐらいじゃないですか。やはり、1人の先生が見れるのは40人ぐらいだから、とか。
あとは住宅手当など、何の手当てにしてもオフィスから半径1.4キロ以内に住んでいれば、1万4,000円出す、といったように。
普通は2駅まで2万円、なのですが、うちは1.4キロなのでもう少し狭いんです。そこで、なぜか1万4,000円出します。飲んで、終電がなくなっても歩いて帰れる距離ですね。
勝亦:後付けの理由ができるわけですね。
山本:「全部イーシーでいいやんか」という感じになって。ですからチャットワークも今のフリープランも、チャットワークになってからもグループチャットの制限数が14個だったり。
勝亦:ああ、だからなんですね。
山本:パーソナルプランも1人400円だとか。
勝亦:それは気付かなかった。
山本:もっときちんと考えた方がいいのかもしれませんが、イーシーはゴールデンナンバーなのです。ほかの会社がこれをまねしようとします。うちの会社はものすごくまねされるので知ってはいましたが、1と7とか、全くうまくいかない。
何の関係もないのですが、1と4にやはりみんな(揃えて)いて。それでは、こだわりも何もないじゃないですか、と。「いや、うちは御社をまねすると決めたから、それがポリシーです」といったように。
勝亦:それがこだわりなんですね。
山本:そうそう。みたいな。すると誰も文句を言いません。「ああ、またですよね」となって早いし、考える必要もありません。
勝亦:今、少し謎が解けましたね。チャットワークの14チャット。なぜこんな、14なんていう中途半端な数字なんだろうと思っていました。
山本:イーシーです。
勝亦:そういうことだったんですか、面白いですね。
山本:イーシーって言ったら「ヘイ、Siri」が出てきました。
勝亦:すごい、Siriも反応するんですね。
チャットワーク創立の経緯
勝亦:今度はチャットワークの時代のお話ですが、このEC studioからチャットワークに変わるのは、当然そのチャットワークというツールを生み出して、それが広がっていって、ならばこれに力を入れていこう、というタイミングだったと思いますが。
これほどEC studioにいろんなこだわりを持って仕組みを作ってきて、それをおそらくある意味で手放しながらチャットワークの方に絞っていったと思います。その時に、自分の中の抵抗(感)や会社の中の抵抗というのはありませんでしたか?
山本:ええ、もともとホームページの売上アップ支援事業、SEOのツールやホームページ診断の事業から始まって、SEOは2005~2006年ぐらいから、「いや、これはもういずれ頭打ちが来るからやめよう」と。
普通は、それでも儲かっていればやるでしょう。私の場合はその先に、次の事業に転換するぞという(考えで)新規ストップです。更新だけは残しておかないと全員死んでしまうので(残します)。でも絶対目減りしますので社員は焦りますよね。
新規事業を強制的に生み出さないといけない仕組みといえば仕組みですね。うちの理念は、「経済的豊かさ」「時間的ゆとり」「円満な人間関係」の3本柱ですが、「経済的豊かさ」が売上アップ支援事業、「時間的ゆとり」が働き方改革事業。
「円満な人間関係」は社員満足度であったり、お客様との関係。という、この3本柱以外の事業はやりません。ゲーム(の人気)が出てきても関係なし、グルーポンのようなフラッシュマーケティングみたいなものが出てきても全く興味なし、全くぶれない。この理念の3本以外の事業は絶対やらない。しかもB to Bです。もうかる話は乗らない、という感じでやっています。
チャットワークをやっていく時に、業務効率の方に入っていきましたが、最初は自社のSEOツール、自社の診断サービスでした。その次にグーグルアップスを売ったりセキュリティソフトを売ったり、マインドマップソフトを売ったり、動画キャプチャーソフトを売ったり、業務効率が上がるようなソフトウェアの代理店になって、むちゃくちゃに売っていました。
全部のソフトを日本で一番売っていたのです。
勝亦:そうなんですか。
山本:売上支援なんて何千サイトも支援してきたので、売上を上げるノウハウのすべてを持っているのです。そのノウハウを持っている私らが、本気で1個のプロダクトをマーケティングしたらこうなるんだ、というところを見せつける。
ヨドバシカメラやヤマダ電機とかであれば、並べますよね。1ジャンル1ソフトを徹底的に私たちが調べ抜いて、セレクトショップですね。
勝亦:なるほど。
山本:もうかるソフトを売るのではない。皆さんに役立つソフトしか売らない。だからうちの扱ってるソフトを導入すると皆さん、ファンになるんです。EC studioがセレクトしたソフトをどんどん買っていけば、とても効率がいい、となったのです。
めちゃくちゃに販売して、売上もすごく伸びていましたが、やはり他人のソフトを売っていたので、自分の子どもが運動会で優勝したらうれしいかもしれませんが、いとこや友達の子が優勝しても何か…。誰か全然知らない人よりはうれしいけれど。
勝亦:「よかったね」みたいな。
山本:もうかってうれしいけれど、何かちょっと自分の感じじゃない、みたいな(感覚)が少しあったんですね。また、チャットワークの前はEC studioという所の社員満足度、私たちが売るソフトを皆さんに買っていただくためには、EC studioがどんな会社っていうのをPRしないといけないな、と思って、徹底的にEC studioをPRしていました。社員満足度1位など、どうでもよかったですが、PRのために嫌々使ったのです。
勝亦:そうなんですね。
山本:そうすると毎週全国から10数社が大阪の田舎の方に視察に来ました。
勝亦:やはりインパクト強かったですか?
山本:そうですね。この本にもまだ「EC studio1日体験留学」のような(記載)が最後の方にありますが、訪問してきていました。そこで、社員に言われたんです。「何言ってもいいよ」と言っていましたが、「社長、でも社員満足度1位の会社だと思って皆さん期待して来られてるから、そういう答えをしなきゃいけないっていうプレッシャーがあります」みたいな(ことを)。
勝亦:確かに、確かに。その気持ち分かります。
山本:「そうか、いや、何でも言っていいよ」と。
しかし、「給料いくらなの?」などそんな質問もやはり来たりして、「社長、私たち動物園の動物みたいです」「仕事に集中したいのに何か見られてて、『どれどれ』みたいな感じで見られるのが嫌だ」と。社員満足度ブランドがつきすぎてしまったというのもありました。
そこで、やはり自社プロダクトに行こうと。会社に注目を浴びるのではなく、プロダクトに注目を向けさせよう、となって新しいプロダクトである、チャットワークを作ることになったんです。
この時も単に儲かりそうなビジネスを作るのではなく、2000年にロサンゼルスで創業して10年経って2010年ぐらい(のこと)で、10年間経っても日本のIT企業が世界で全然戦えていないな、という思いもあったので、次に出すプロダクトは絶対にグローバルで戦えるプロダクトしか出さない、と決めました。
それでチャットワークのアイディアを(出しました)。スカイプチャットも使いこなしていたので、それをビジネス版にクラウドにして作ろう、というふうにして作ったのが2010年です。リリースは2011年3月です。3・11の10日前にリリースしたのです。
勝亦:そうですか。
山本:というところで、また自社プロダクトに戻りました。なので、EC studioの社名は変えるべきだから変えたというのもありますし、早く捨てたかったのもあります。
勝亦:そうなんですね。
山本:業務効率のソフトでも、儲かってはいないけれど売らざるを得ないようなソフトもありました。効率化には絶対必要、といったような。そういうものも、無償で譲渡したり、やめたりしました。私たちはチャットワークでやっていくんだ、「エイ、ヤー」というふうに脱皮したわけです。
勝亦:そういうことだったんですね。私そのEC studioで、こちらの本を読ませていただいた時に、すごくいろんな仕組みができているし、ルール化されいて社員もとても楽しそうで良い会社なんだな、というふうに思いました。で、このチャットワーク1本に絞るということは、その出来上がった仕組みを捨ててることだと思ったんです。
なので、今もそうなのですが、私がコンサルさせていただいている方も仕組みを作って満足すると、結構安定してくるので、そこにこだわってしまったりするんですね。手放すことがとても難しいんじゃないかなと思って。そこで少しお伺いしたいのが、何かそういう思いがあって「もうみんなで脱皮しよう」という形で捨てっていったのですか。
山本:みんなで、というより私なのですけど。そうですね。
勝亦:分かりました、ありがとうございます。
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